線形代数最重要定理:基底のサイズ(次元)の一意性
今日は線形代数の最重要定理といわれる「基底のサイズ(次元)の一意性」の証明を復習しました。
定理1: $V$を有限次元ベクトル空間とする。このとき$V$の基底のサイズは一意的である。
これは行列の階数標準形を使えばそんなに難しい話ではないですが、行列を使わずに証明するとなると結構やっかいです。齋藤正彦『線型代数入門』p.104に行列を使わない証明が載っています。
行列を使う証明はせいぜいPID上の加群までしか一般化できないですが、この齋藤に載っている証明なら任意の可換環上の自由加群に対して同様の議論で証明ができるのがメリットかもしれません。
そういえば、一般の可換環上の自由加群についても階数の一意性が言えたはずでどうやって証明しているのだろうと気になり調べました。 雪江明彦『代数学2 環と体とガロア理論』を参照すると次のような証明。
極大イデアルで割り、ベクトル空間の話に帰着されています。これは賢い。
ところで、こういう話をTwitterでしていたら「ジョルダン・ヘルダーの定理はベクトル空間の次元の一意性の一般化と思える」という話をある方から教えてもらいました。確かにそうですね。
線形代数2番目に重要な定理:線形独立な集合は基底に延長できる
次元の一意性が最重要定理なら、二番目に重要なのは基底の存在、もっと一般には「線形独立な集合は基底に延長できる」ことなんじゃないかと思いました。
定理2: $V$をベクトル空間とする。$S$を線形独立な$V$の部分集合とする。このとき$S \subseteq S'$となる$V$の基底$S'$が存在する
この定理、一般の可換環上の自由加群には一般化できません。例は$\mathbb{Z}$加群$\mathbb{Z}$で$S=\{2\}$です。 さて、では定理の証明のどこで体であることを使っているんでしょうか。
この定理の証明は次の2ステップに分かれます:
- 線形独立な集合$S$はそれを含む極大な線形独立な集合に拡大できる
- 極大な線形独立な集合は基底である
1つ目はいつも通りZornの補題を使えば示すことができ、一般の加群でも言えます。 2番目が体であることを本質的に使います。
2番目の証明を追ってみましょう。
ベクトル空間$V$において極大な線形独立な集合$S$は基底である
$S$が$V$を生成しないと仮定し、$x \in V \setminus \langle S \rangle$をとります (ここに$\langle S \rangle$は$S$の生成する空間)。 $S' = S \cup \{x\}$とおく。
主張: $S'$はまた線形独立である。
∵) 線形関係 $\sum_{i=1}^n a_i x_i + b x = 0 (a_i, b \in k, x_i \in S)$ を仮定する。$b=0$なら$S$の線形独立性よりこの線形関係は自明である。 $b \ne 0$なら両辺$b$で割り整理すると \[ x = \sum_{i=1}^n \left(-\frac{a_i}{b}\right) x_i \] となる。これは$x \not \in \langle S \rangle$に矛盾。よって主張が言えた。 //
よって、$S'$は$S$より真に大きい線形独立な集合。これは極大性に反する。 □
線形関係の$x$にかかっている係数$b$で割ったところがポイントです。ここで体であることを使っています。
まとめ
復習をしてみて、線形代数の理解が深まりました。