固定した無限集合に入る位相はいくつあるか?

集合{X}を固定する。 このとき、{X}に入る位相の個数、すなわち{(X, \mathcal{O})}位相空間にするような位相 (開集合系){\mathcal{O}}はいくつあるかという問題を考える。 ただし、同相なものの同一視は行わない。

たとえば、X = \{0, 1\}のとき開集合系は

  •  \{ \emptyset, X \}
  •  \{ \emptyset, \{0\}, X \}
  •  \{ \emptyset, \{1\}, X \}
  •  \{ \emptyset, \{0\}, \{1\}, X \}

の4個ある。

{X}が濃度{n}の有限集合のとき、その上の位相の数の{n}に関するかんたんな式は見つかっていない。 しかし、{n}が小さいときの値は具体的に求められていて、小さい順に次のようになっている。

1, 1, 4, 29, 355, 6942, 209527, 9535241, 642779354, 63260289423, …

この数列はOEISに登録されている。以下を参照。

さて、この記事では有限ではなく無限の場合を考えよう。ある意味では無限の方が簡単である。

固定した無限集合に入る位相の個数

定理1: 無限集合{X}を固定する。このとき{X}に入る位相の数は{2^{2^{|X|}}}である。

次の事実を認める。

事実1: 無限集合{X}を固定する。このとき{X}上のウルトラフィルタ―の個数は{2^{2^{|X|}}}である。

定理1の証明: まず、{X}上の位相は{X}のべき集合の部分集合なのだから、その数は{2^{2^{|X|}}}で抑えられる。 {2^{2^{|X|}}}個の位相があることを示そう。

{X}上のフィルタ―{U}に対して、{U \cup \{\emptyset\}}は開集合系になる。 なぜなら、フィルタ―{U}の上方閉性より開集合の任意個の和集合は開集合であり、フィルター{U}の有限個の共通部分で閉じる性質より有限個の開集合の共通部分が開集合になるから。 よって事実より、{X}に入る位相の数は{2^{2^{|X|}}}である。 □

固定した無限集合に入るハウスドルフ位相の個数

上で定まる位相はハウスドルフでない。実際、2個の空でない開集合は必ず交わる。 ならば、ハウスドルフに限定したときはいくつあるだろう? 次の定理がその疑問に答える。

定理2: 無限集合{X}を固定する。このとき{X}に入るハウスドルフ位相の数は{2^{2^{|X|}}}である。

定理2の証明。 {X}に属さない元{\infty}をとり{Y = X \cup \{ \infty \}}とおく。 {U}{X}上の非単項ウルトラフィルタ―とする。 このとき{Y}に次で位相を入れる。

  • {\infty}以外の元は孤立点にする。
  • {\infty}はその近傍全体を {A \cup \{ \infty \}} ({A \in U})の形の集合全体とする。

これは近傍系の公理を満たしていてハウスドルフなことは容易に分かる。非単項性がハウスドルフ性に効いている。 また、{X}上のウルトラフィルタ―から{Y}上の上記の位相を作る対応は({\infty}の近傍系を見れば復元できるので)単射である。 したがって、{Y}上のハウスドルフ位相は事実1より{2^{2^{|X|}}}個ある。

{Y}は無限集合{X}に一点付け加えただけなので{X}{Y}の濃度は変わらない。 よって{X}上のハウスドルフ位相の個数も{2^{2^{|X|}}}個である。 □

固定した無限集合に入るコンパクトハウスドルフ位相の個数

コンパクトハウスドルフ空間に限定した場合はいくつあるだろう?その答えは次である。

定理3: 無限集合{X}を固定する。このとき{X}に入るコンパクトハウスドルフ位相の数は{2^{|X|}}である。

これは次を証明すれば十分である。

定理3': {\kappa}を非可算無限基数とする。{|X| = \kappa}なるコンパクトハウスドルフ空間{(X, \mathcal{O})}の個数は同相なものを同一視して{2^\kappa}個である。 可算コンパクトハウスドルフ空間の個数は同相なものを同一視して\omega_1個である。

{\kappa}が可算の場合は、次の記事で扱うことにして、ここからは{\kappa}を非可算と仮定する。

定理3'を示せば十分なこと) 定理3のためにはじめから{X = \kappa}としてよい。 {\kappa}から{\kappa}全単射の個数は{2^\kappa}である。 よって、{\kappa}上のコンパクトハウスドルフな位相の同相類の個数が{2^\kappa}であれば、{\kappa}上のコンパクトハウスドルフな位相の(同相の同一視をしない)数は{2^\kappa \times 2^\kappa = 2^\kappa}で抑えられる。 なぜならば、各同相類の代表元(\kappa, \mathcal{O})\kappa上の全単射fを考えて、fによる\mathcal{O}の押し出し (あるいは引き戻し、どちらでもよい)全体を考えれば、それは{\kappa}上のコンパクトハウスドルフな位相全体を走るからである。 また、{\kappa}上のコンパクトハウスドルフな位相の(同相の同一視をしない)数は(同相の同一視をしても{2^\kappa}あるのだから){2^\kappa}以上なこともすぐ分かる。

したがって、これより定理3'を示す。

まず、同相類の個数がたかだか{2^\kappa}であることを示そう。

補題1: {X}が濃度{\kappa}のコンパクトハウスドルフ空間ならば各点は濃度{\kappa}以下の近傍基を持つ。

{x \in X}を固定する。 ハウスドルフ性より各点{y \in X \setminus \{ x \}}について交わらない開集合{U_y, V_y}があって{x \in U_y, y \in V_y}. {\mathcal{U} = \{ U_y : y \in X \setminus \{x\} \}}とおき、

{
\mathcal{B} = \{ \bigcap \mathcal{F} : \mathcal{F} \subset \mathcal{U} \land \text{$\mathcal{F}$は有限} \}
}

とおく。

このとき{\mathcal{B}}は点{x}の近傍基である。 実際、{U}{x}の開近傍とする。 このとき、{\{ V_y : y \in X \setminus U \}}はコンパクト集合{X \setminus U}開被覆なので、有限の{F \subset X \setminus U}があり、{\{ V_y : y \in F \}}{X \setminus U}を覆う。 したがって、{\bigcap_{y\in F} U_y \subset U}である。 //

補題1より{X}は濃度{|X| \times \kappa = \kappa}の開基を持つ。各点の近傍基の貼り合わせで開基が作れるからだ。 {X}はT3.5空間で濃度{\kappa}の開基を持つのでチコノフ立方体{[0, 1]^\kappa}に埋め込める。 今、{[0, 1]^\kappa}は濃度{\kappa}の開基を持つ。これは、[0, 1]は可算な開基を持つので、直積空間の開基の与え方から直接計算で分かる。 ゆえに、{[0, 1]^\kappa}の開集合の個数は{2^\kappa}個だとわかる。 よって、{[0, 1]^\kappa}閉集合の個数も{2^\kappa}. {X}はそのような部分集合として埋め込まれているので、{X}の(同相を除いた)可能性は{2^\kappa}以下である。

\kappaが非可算の場合の同相類の個数が少なくとも2^\kappaであること、定理3'の\kappa=\aleph_0の場合、および、定理3で{X}可算無限集合の場合の証明は次の記事に書くことにした。 (執筆中)

参考文献

なお、定理2の証明の細部はTwitterでジタさん (@fujitapiroc1964)に教えて頂いた。