位相空間の順系の順極限を考えよう.
つまり,に対し,
により,は順系をなすので,この順極限をとする.
この空間は幾何学においてグラスマン多様体やそのバンドルを考えるときなどに登場し重要な役割を果たす.
実はこの空間の指標がdominating numberと呼ばれる基数になっている. 指標とは位相空間の各点の近傍基の最小のサイズの上限である.たとえば位相空間が第一可算ならば指標はである. dominating number は基数不変量と呼ばれるものの一つで,以上以下なことは分かっているが,具体的な値はZFCでは定まらない. そのような基数が,幾何学で自然に登場する空間の自然な不変量の値として現れるのはなかなか面白い.
この記事ではの証明を目標としよう.
について
からへの写像の集合がdominating setとは
を満たすことと定める. dominating number は次で定義される:
の濃度が連続体なので,は明らか. が以上なことは対角線論法で示せる. 実際,可算なdominating set があったとしよう. とする. を次で定める.
このときどんなについてもである.これはがdominating setであることに矛盾している.
が以上以下なことはわかったが,具体的な値はZFCでは決定できない. 実際,強制法によりの値は割と自由に動かせる.たとえば,であるZFCのモデルを得ることができる (は好きな以上の自然数に変更可能).
について
は順極限により定義したが,この定義のままでは使いづらい. そこで具体的な集合とその上の位相によりを構成する.
まず
とおき,上の位相を次で定める.
このときこの位相空間が順極限になっている. これは普遍性を地道に確かめればよい.
以後と書いたら,ここで構成したものとする.
の証明
において平行移動は同相写像であるので,どの点で考えても近傍基のサイズは変わらない.そこでの近傍基のサイズを考える.
について. をの近傍基とする. 自然数の列に対して,
とおくと,上の注意よりの開集合でありを含む. よって,がの近傍基なことからで,なものがとれる.
こうしてとれたに対して次のように自然数列を定める.
がを含むの開集合なことからなるをとる. すると,よりである. 上のから数列をとる操作を選択公理により固定しておいて,と書こう.
するとどんな自然数列に対しても,が存在して,すべての自然数で. よってが自然数列の全体をdominateしている. したがって,である.
逆向きの不等号を示す. dominating set であって,なものをとる.各に対し,
とおき,を考える. がの近傍基なことを示す. をの近傍とする.すると各については内のの近傍. よって十分小さく正の実数をとることで,となる. となる自然数をとる. そして,がdominatingなのですべてのでとなるをとれる. このときとなる. したがって,がの近傍基である. よって,が示せた.
補足
は直積空間の部分空間とは同相ではない. これは上で証明したことから分かる.なぜなら,は第二可算なのでその部分空間も第二可算. しかし,は指標が非可算なことを示したので第一可算ですらない.