週刊 MAのモデルを作る #01 MAの応用

前回はMAの主張を紹介し,\mathrm{MA}(\aleph_0)が成り立ち,\mathrm{MA}(2^{\aleph_0})が成り立たないことを証明した. 今回は,MAの応用を2つ紹介する.

命題1
\mathrm{MA}(\kappa)を仮定する. このとき実数全体\mathbb{R}のどんな非空開集合も\mathbb{R}のnowhere dense集合の\kappa個の和集合では覆えない.

定義を復習すると位相空間の部分集合Aがnowhere denseとはAの閉包の内部が空なことであった. 直観的にはnowhere denseな集合というのはある意味で「とても小さい」集合である.そのような集合を少ない個数集めても非空開集合は覆えない,すなわち非空開集合は「小さくない」ということを主張している.命題1は\mathbb{R}に対するベールの範疇定理の一般化になっている.

実は次が言える.

命題2
\mathrm{MA}(\kappa)を仮定する. このとき任意のコンパクトハウスドルフcccな空間Xに対して,Xのどんな非空開集合もXのnowhere dense集合の\kappa個の和集合では覆えない.

なお位相空間Xがcccとは互いに交わりのない開集合の族が必ずたかだか可算になることを言う.これはXの開集合系\mathcal{O}_Xから空集合を除いて包含で順序を入れた半順序集合がcccなことと同値である.

\mathbb{R}はコンパクトでないので,命題2から直接は命題1は出てこないが,\mathbb{R}の一点コンパクト化\mathbb{R} \cup \{\infty\}に命題2を適用することはできて,そこから\mathbb{R}に対する主張も出る.よって命題2を示せばよい.

(2020/7/7 追記: 前回の半順序P_cを使っても命題1は証明できる.証明は以下の命題2と全く同様である)

命題2の証明. Xの非空開集合のなす半順序P = \mathcal{O}_X \setminus \{ \emptyset \}で包含で順序を入れたものを考える.上に述べた通り,これはcccな半順序である.

Oを与えられた非空開集合とする. またN_\alpha (\alpha \lt \kappa)Xの与えられたnowhere denseな閉集合とする. ON_\alphaたちで覆えないことを示そう.

\alpha \lt \kappaに対し

\displaystyle{
D_\alpha = \{ U \in P : \overline{U} \cap N_\alpha = \emptyset \}
}

とおく.

すると各D_\alphaPの稠密集合である. なぜならば,U \in Pとする.このときUが非空開集合でN_\alphaがnowhere dense閉集合なので,U \setminus N_\alphaは非空開集合である.コンパクトハウスドルフ空間は正則なので非空開集合Vをとって\overline{V} \subset U \setminus N_\alphaとできる.よってV \subset UかつV \in D_\alphaなのでよい.

そこでMAを使って,PのフィルターGでどのD_\alphaとも交わるものをとれる.

前回やったのと同じ議論により,Gは有限交差性を満たすので,Xのコンパクト性より

\displaystyle{
F = \bigcap_{U \in G} \overline{U}
}

とおくとF \ne \emptysetである. GD_\alphaが交わることよりF \cap N_\alpha = \emptysetが従う.よって,F \cap \bigcup_{\alpha \lt \kappa} N_\alpha = \emptyset. Fの点を一点とれば,Fの定義と正則性よりそれはOの点でもあるが,それは\bigcup_{\alpha \lt \kappa} N_\alphaの点ではない.よってON_\alphaたちで覆えない. □

さて,MAの応用をもう一つ紹介しよう.

命題3
\mathrm{MA}(\kappa)を仮定する. 自然数から自然数への関数の族\langle f_\alpha : \alpha \lt \kappa \rangle, 各f_\alphaf_\alpha: \omega \to \omegaなものに対して一個の関数g: \omega \to \omegaですべてのf_\alphaを抑えられる:

\displaystyle{
    \forall \alpha \lt \kappa\ \exists n_0 \in \omega\ \forall n \ge n_0\ (f_\alpha(n) \le g(n)).
    }

f:id:fujidig:20200707045618p:plain:w500

証明. この証明ではHechler強制という少しテクニカルな半順序を使う:

\displaystyle{
P = \{ (s, f) \in \omega^{\lt\omega} \times \omega^\omega : s \subset f \}.
}

順序は

\displaystyle{
(s,f) \le (t, g) \iff t \subset s \land \forall n \in \omega\ (g(n) \le f(n))
}

で定める.

たとえば

\begin{align*}
(t, g) &= ( (1, 2, 3), (1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, \dots)) \\
(s, f) &= ( (1, 2, 3, 4), (1, 2, 3, 4, 50, 60, 70, 80, \dots))
\end{align*}

に対して(s,f) \le (t,g)が成り立つ.

まずPはcccである.実際,(s, f), (t, g) \in Ps = tを満たすとき,(s, f) \parallel (t, g)である.なぜならば,(s, \max\{f, g\}) \le (s, f), (s, g)だからである.ここに\max\{f, g\}(n) = \max\{f(n), g(n)\}.このことと\omega^{\lt\omega}が可算なことよりPはccc.

n \in \omegaに対して

\displaystyle{
E_n = \{ (s, f) \in P : n \in \operatorname{dom} s \}
}

とおく.また,g: \omega \to \omegaに対して

\displaystyle{
D_g = \{ (s, f) \in P : \forall n \ge |s|, g(n) \le f(n) \}
}

とおく.

E_nは稠密集合である.実際,(s, f) \in Pについてsの長さがすでにn以上ならそれでよくて,そうでなければ(f \upharpoonright n, f)(s, f)の拡大となるE_nの元である.

D_gは稠密集合である.実際,(s, f) \in Pとする. このとき(s, h)(s, f)の拡大となるD_gの元である.ここに

\displaystyle{
h(n) = \begin{cases}
s(n) & (n \lt |s|) \\
\max\{f(n), g(n)\} & (n \ge |s|).
\end{cases}
}

よってMAより,\{E_n : n \in \omega\} \cup \{D_{f_\alpha} : \alpha \lt \kappa\}のすべてのメンバーと交わるフィルターGがとれる.ここで

\displaystyle{
f_G = \bigcup \{s : (s,f)\in G\}
}

とおく.

まずf_Gは関数である.なぜならば関数でないとするとある(s,f), (t,g)\in Gがあってstが食い違っている.ところが,Gの有向性よりこれはありえない.

次に関数f_Gの定義域は\omegaである.実際,任意のnについてG \cap E_n \ne \emptysetなのでn \in \operatorname{dom} f_Gである.

最後にf_Gはすべてのf_\alphaを支配する.すなわち\forall \alpha \lt \kappa, \exists n_0 \in \omega, \forall n \ge n_0, f_\alpha(n) \le f_G(n)である. 実際,\alpha \lt \kappaとする. (s, f) \in G \cap D_{f_\alpha}をとる. n_0 = |s|とおく. n \ge n_0とする. G \cap E_n \ne \emptysetなので(t, g) \in G \cap E_nをとる. Gの有向性より(u, h) \le (s, f), (t, g)がとれる. するとn \in \operatorname{dom} u. すると

\displaystyle{
f_G(n) = u(n) = h(n) \ge f(n) > f_\alpha(n).
}

よって,

\displaystyle{
\forall n \ge n_0\ (f_G(n) > f_\alpha(n))
}

である. □

ところで命題1, 2, 3では\mathrm{MA}(\kappa)を仮定したが,\mathrm{MA}(\aleph_0)はZFCで証明できるのであった. 命題1, 2の\kappa = \aleph_0のときの主張はベールの範疇定理そのものである. また命題3の\kappa = \aleph_0のときの主張は対角線論法でかんたんに示すことができる. だから,面白いのは\kappa \ge \aleph_1のときであり,つまり連続体仮説が成り立っていないときである. たとえば,連続体濃度2^{\aleph_0}\aleph_{2020}であり,MAが成り立つとしよう (これはこのシリーズで今後示す通り無矛盾である). このときは\mathrm{MA}(\aleph_{2019})が成り立つ..よってこの仮定のもとで命題1, 2, 3は\kappa = \aleph_{2019}で成り立つのである.

さて,今回はMAの応用を述べた.次回から強制法の内容に入る予定である.

参考文献
  1. K. Kunen (2011) "Set Theory" College Publications
  2. 新井敏康 (2011) 『数学基礎論岩波書店

ベールの範疇定理の一般化の証明は1を,Hechler強制については2を参考にした.