前回はMAの主張を紹介し,が成り立ち,が成り立たないことを証明した. 今回は,MAの応用を2つ紹介する.
命題1
を仮定する.
このとき実数全体のどんな非空開集合ものnowhere dense集合の個の和集合では覆えない.
定義を復習すると位相空間の部分集合がnowhere denseとはの閉包の内部が空なことであった. 直観的にはnowhere denseな集合というのはある意味で「とても小さい」集合である.そのような集合を少ない個数集めても非空開集合は覆えない,すなわち非空開集合は「小さくない」ということを主張している.命題1はに対するベールの範疇定理の一般化になっている.
実は次が言える.
命題2
を仮定する.
このとき任意のコンパクトハウスドルフcccな空間に対して,のどんな非空開集合ものnowhere dense集合の個の和集合では覆えない.
なお位相空間がcccとは互いに交わりのない開集合の族が必ずたかだか可算になることを言う.これはの開集合系から空集合を除いて包含で順序を入れた半順序集合がcccなことと同値である.
はコンパクトでないので,命題2から直接は命題1は出てこないが,の一点コンパクト化に命題2を適用することはできて,そこからに対する主張も出る.よって命題2を示せばよい.
(2020/7/7 追記: 前回の半順序を使っても命題1は証明できる.証明は以下の命題2と全く同様である)
命題2の証明. の非空開集合のなす半順序で包含で順序を入れたものを考える.上に述べた通り,これはcccな半順序である.
を与えられた非空開集合とする. またをの与えられたnowhere denseな閉集合とする. がたちで覆えないことを示そう.
に対し
とおく.
すると各はの稠密集合である. なぜならば,とする.このときが非空開集合でがnowhere dense閉集合なので,は非空開集合である.コンパクトハウスドルフ空間は正則なので非空開集合をとってとできる.よってかつなのでよい.
そこでMAを使って,のフィルターでどのとも交わるものをとれる.
前回やったのと同じ議論により,は有限交差性を満たすので,のコンパクト性より
とおくとである. とが交わることよりが従う.よって,. の点を一点とれば,の定義と正則性よりそれはの点でもあるが,それはの点ではない.よってはたちで覆えない. □
さて,MAの応用をもう一つ紹介しよう.
命題3
を仮定する.
自然数から自然数への関数の族, 各はなものに対して一個の関数ですべてのを抑えられる:
証明. この証明ではHechler強制という少しテクニカルな半順序を使う:
順序は
で定める.
たとえば
に対してが成り立つ.
まずはcccである.実際,がを満たすとき,である.なぜならば,だからである.ここに.このこととが可算なことよりはccc.
に対して
とおく.また,に対して
とおく.
各は稠密集合である.実際,についての長さがすでに以上ならそれでよくて,そうでなければがの拡大となるの元である.
各は稠密集合である.実際,とする. このときがの拡大となるの元である.ここに
よってMAより,のすべてのメンバーと交わるフィルターがとれる.ここで
とおく.
まずは関数である.なぜならば関数でないとするとあるがあってとが食い違っている.ところが,の有向性よりこれはありえない.
次に関数の定義域はである.実際,任意のについてなのでである.
最後にはすべてのを支配する.すなわちである. 実際,とする. をとる. とおく. とする. なのでをとる. の有向性よりがとれる. すると. すると
よって,
である. □
ところで命題1, 2, 3ではを仮定したが,はZFCで証明できるのであった. 命題1, 2ののときの主張はベールの範疇定理そのものである. また命題3ののときの主張は対角線論法でかんたんに示すことができる. だから,面白いのはのときであり,つまり連続体仮説が成り立っていないときである. たとえば,連続体濃度がであり,MAが成り立つとしよう (これはこのシリーズで今後示す通り無矛盾である). このときはが成り立つ..よってこの仮定のもとで命題1, 2, 3はで成り立つのである.
さて,今回はMAの応用を述べた.次回から強制法の内容に入る予定である.
参考文献
ベールの範疇定理の一般化の証明は1を,Hechler強制については2を参考にした.