ディオファントス方程式が整数解を持つことは任意の自然数nについてmod nの解を持つことと同値かどうか

整数係数多項式f(x_1, \dots, x_n)を使って書けるx_1, \dots, x_nの方程式

f(x_1, \dots, x_n) = 0

ディオファントス方程式という。

ディオファントス方程式の例は x^2 + y^2 = 25 とか x^3 + y^3 = z^3 などがあげられる。

さて、ディオファントス方程式が整数解を持つならば、当然それを\bmod nで射影すれば\bmod nの解が得られる。 逆に任意の正整数nについて\bmod nの解をもつならば整数解を持つだろうか?

これの答えはNoである。ディオファントス方程式であって任意の正整数nについて\bmod nの解をもつが、整数解を持たないものが存在する。

これの証明がいろいろあり、面白かったので紹介する。

解答5を除いてはnt.number theory - Diophantine equation with no integer solutions, but with solutions modulo every integer - MathOverflowによる。

解答1

3x^3+4y^3+5z^3=0が反例。

これは\mathbb{Q}上に解を持たないが、\mathbb{R}と任意の\mathbb{Q}_pに解を持つ3次形式として知られている。しかしその証明はあまり簡単ではないようだ。

解答2

x^2+y^2+z^2+w^2=−1が反例。

まず、整数解を持たないのは明らか(任意の整数について左辺は0以上なので)。 一方で任意のnについて4平方和定理よりx^2+y^2+z^2+w^2=n-1となるx, y, z, wが存在する。よって両辺\bmod nをとって方程式の\bmod n解を得る。

解答3

(x^2-2)(x^2-17)(x^2-34)=0が反例。

まず整数解を持たないのは、この実数解がx = \pm \sqrt{2}, \pm \sqrt{17}, \pm \sqrt{34}有理数でないことからわかる。

次に任意の素数pについて\bmod pで解を持つこと。 これは平方剰余の理論からわかる。

p2でも17でもないとき。ルジャンドル記号の性質

\displaystyle{\left(\frac{2}{p}\right)  \left(\frac{17}{p}\right) =  \left(\frac{34}{p}\right)}

より217がともに平方非剰余なら34が平方剰余となる。 よって2, 17, 34のどれか一つは平方剰余なので(x^2-2)(x^2-17)(x^2-34)\equiv 0 \pmod pは解を持つ。

p=2の場合はx=1が解。 p=17の場合は方程式はx^2=2となるが、これは第二補充法則より\left(\frac{2}{17}\right)=1なので解あり。

次に任意の素数べきp^eについて\bmod p^eで解を持つこと。 これはヘンゼルの定理よりわかる。 ただし、p=2のときはf(x) = x^2-17微分f'(x) = 2x \equiv 0 \pmod 2となってしまうので、x=1x^2-17 \equiv 0 \pmod 4の解であるところから始めなければいけない。

最後に一般のnについては中国剰余定理から\bmod nの解の存在が分かる。

解答4

x^2+23y^2=41が反例。

整数解を持たないことはx^2 \ge 0よりy = 0, \pm 1とならないといけないことからわかる。

有理数解として(x, y) = (1/3, 4/3)があるので3以外の素数べきの法について解が得られる。 また、(x, y) = (9/4, 5/4)も解なので2以外の素数べきの法についても解が得られる。 したがって任意の素数べきの法について解が得られるので中国剰余定理より任意のnについて\bmod nの解が得られる。

解答5 (基礎論的解答)

 A = \{ f(x_1, \dots, x_k) \in \bigcup_{n \in \mathbb{N}} \mathbb{Z}[x_1, \dots, x_n] : \text{$f$は整数解を持つ} \}

は計算可能でない集合であることが知られている(MRDP定理)。 Aは明らかに\Sigma_1なため、\Pi_1でない。

一方で、任意のディオファントス方程式について整数解を持つこととすべてのnに対して\bmod n解を持つことが同値だったら

 A = \{ f(x_1, \dots, x_k) \in \bigcup_{n \in \mathbb{N}} \mathbb{Z}[x_1, \dots, x_n] : \forall n\in\mathbb{N}, \exists a\in(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^k, f(a) = 0 \pmod n \}

A\Pi_1で書けてしまう。矛盾。

この解答だとMRDP定理という大道具を使うし、具体的な方程式が与えられない。

参考文献

  1. nt.number theory - Diophantine equation with no integer solutions, but with solutions modulo every integer - MathOverflow
  2. y., Hilbert の第 10 問題 http://iso.2022.jp/math/undecidable-problems/files/hilberts-tenth-problem.pdf
  3. 雪江明彦 『整数論1 初等整数論からp進数へ』 日本評論社

上にも述べたが解答5以外は[1]によるものである。 MRDP定理については[2]を参照せよ。 平方剰余の理論やヘンゼルの補題は[3]を参照。