週刊 MAのモデルを作る #02 名称と強制関係の定義

前回までMAの主張とその応用を紹介した. 今回からMAのモデルを作ることを目的に強制法を学んでいく. MAのモデルを作るには反復強制法が必要になり目標が遠いので,連続体仮説の否定の無矛盾性を中間目標としよう.

今回から半順序集合といったら最大元の指定された半順序集合(P,,1)を考える. 半順序集合Pの元pは条件 (condition)と呼ぶことがある.

これから定義を述べるP名称と強制関係の気持ちを書いておく. まず,アイディアとして我々は集合論のモデル(宇宙)VGという元を付け加えて拡大しV[G]というより大きなモデルを作りたい.しかしVというのは集合全体のクラスだったので新しい元Gを付け加えるというのは不合理である. そこで今いる宇宙Vの中で新しい宇宙V[G]で成り立つことを予言することで本当に新しい宇宙を作ることの代替とするのである. この意味で,P名称は新しい宇宙にいるオブジェクトを今の宇宙にいながら参照するためのものである.そして強制関係pφpという情報だけから論理式φが新しい宇宙で必ず成立することを予言できるという意味である. 半順序集合Pの元pを確率だと思って,pφφが新しい宇宙で確率p (以上)で成り立っていると読んでもそんなに間違いではない.もちろん,普通の確率と違って今の「確率」は全順序ではないが.

ではP名称を定める.

定義1
Pを半順序集合とする. P名称のなすクラスVPを定める.まず帰納的にVPαという集合を次で定める.

VP0=VPα+1=P(VPα×P)VPγ=α<γVPα (γは極限順序数)

そして,

VP=αOnVPα

とおく.VPの元をP名称という.

P名称は˙x,˙y,˙zのような文字で表すことにする. 定義よりP名称˙xの元は(˙y,p)といった対で˙yP名称でpは条件であることに注意する.

再びお気持ちであるが,P名称とは所属関係に確率の付随した集合と思ってもよいだろう.(˙y,p)˙xというのは確率p (以上)で˙yが指す集合を˙xが指す集合の元にすると読める.

次に条件pP集合論の言語の論理式φ(x1,,xn)P名称τ1,,τnに対してpφ(τ1,,τn)という関係を定める.これはpφを強制すると読む.

まず原子論理式の場合を定義する.

定義2
(rank(˙x),rank(˙y))に関する再帰で次を定義する.

p˙x˙y{qP:(˙z,r)˙y (qrq˙x=˙z)}p以下で稠密p˙y˙x{qP:(˙z,r)˙x (qrq˙y=˙z)}p以下で稠密p˙x=˙yp˙y=˙x(˙z,q)˙x rp,q (r˙z˙y)(˙z,q)˙y rp,q (r˙z˙x)

ここでDPpP以下で稠密とはqp rq (rD)の意味である.

定義の再帰がうまくいくことのために,˙x˙yを入れ替えたものも定義に含めている.

次は一般の論理式である. 以下論理式φの変数に代入する名称を省略する.たとえばpφpφ(τ1,,τn)の省略表記である.

定義3

pφψqp (qφqψ)p¬φqp qφpxφ(x)˙xVP pφ(˙x)

明記していなかったが,本シリーズでは論理記号としては,¬,を本物の記号とし,,がそれらを使った適切な省略表現とする.

定義3における論理式は集合論の内部で定義された論理式ではなくメタで定義された論理式である.

命題4
pφかつqpならばqφ.

証明. 論理式の構成に関する帰納法以外の場合は帰納法の仮定を使わずに定義よりただちに言える. では帰納法の仮定を使う. □

命題5
pφ{q:qφ}p以下で稠密.

証明. は命題4より明らか.を言う.

まず原子論理式に対してランクに関する帰納法で示す.

φ˙x˙yのとき. pP,˙x,˙yVPを固定し

D={qP:(˙z,r)˙y (qrq˙x=˙z)}

とおく.すると仮定

{q:q˙x˙y}p以下で稠密

{q:Dq以下で稠密}p以下で稠密

と言い換えられる.これは単に

Dp以下で稠密である

ことと同値である.よって,p˙x˙yである.

φ˙x=˙yのとき. {q:q˙x=˙y}p以下で稠密であるとする. p˙x=˙yの定義の前半: (˙z,q)˙x rp,q r˙z˙yを示そう.後半も同様である.

(˙z,q)˙y,rp,qを固定する. srとする. すると仮定よりtsがとれてt˙x=˙y. するとt˙x=˙yの定義よりt˙z˙x. これで{t:t˙z˙x}r以下で稠密なことが示せたので帰納法の仮定よりr˙z˙x.

次に論理式の構成に関する帰納法で一般の論理式で命題5が成り立つことを示す.

φψのとき. qpを任意にとり,qφを仮定する. rqとする.このとき仮定よりsrがとれてsφsψである.今命題4よりsφであるので,sψ.これで{s:sψ}q以下で稠密なことが言えたので帰納法の仮定よりqψである.

¬φのとき. qpを任意にとる.するとrqがとれて,r¬φ. よって,任意のsrsφ. これであるrqが存在してすべてのsrsφが示せたが,これは{s:sφ}q以下で稠密なことの否定である.よってqφ.

xφ(x)のとき. ˙xVPを任意にとる. qpを任意にとる.すると仮定よりrqがとれて,˙xVP rφ(˙x). ここで今固定している˙xを代入すればrφ(˙x). よって,{r:rφ(˙x)}p以下で稠密が示せたので帰納法の仮定よりpφ(˙x).よってpxφ(x). □

命題6
pφqp (q¬φ).

証明. 右辺を否定の強制の定義に従って書き直すと

qprq (rφ)

であるが,これは{r:rφ}p以下で稠密であることの否定である.よって命題6は命題5の主張で同値の両辺を否定したものにすぎない. □

命題7

  1. pφψqp (qφrq (rψ)).
  2. pφψ{q:(qφ)(qψ)}p以下で稠密.
  3. pφψ(pφ)(pψ).
  4. pxφ{q:˙xVP qφ(˙x)}p以下で稠密.

証明. 1について.は定義より明らか.を示す. qpを任意にとり,qφを仮定する. rqを任意にとると,rφである. よって仮定より,srがとれて,sψ. これで{s:sψ}q以下で稠密なことを言えたのでqψ.

2について. φψ¬φψの省略形と考えるので, pφψqp (q¬φqψ)と書ける.D={q:(qφ)(qψ)}とおく.

について.Dp以下で稠密なことを言えばよい. qpとする.qqφを満たすならqD,qpなのでそれでよい. そうでないなら,命題6よりqφなのでrqがあってr¬φである.すると仮定よりrψ.よってrD,rpなのでよい.

について.qpを任意にとって,q¬φと仮定する.Dの稠密性よりrqがとれて,rφまたはrψ.q¬φの定義からrφはありえない.よってrψ. これで命題7 (1)で述べたp¬φψの同値な条件が確かめられたのでこれでよい.

3について. φψ¬(¬φ¬ψ)の省略形と考える. よって

pφψqp (q(¬φ¬ψ))qp rq sr ((s¬φ)(s¬ψ)))qp rq sr ((ts tφ)(ts tφ))

である.

について.qpを任意にとる. (*)にこのqを代入する. このときrqがとれてsr ((ts tφ)(ts tφ)). s=rを代入することで,trが存在してtφ. これで{t:tφ}p以下で稠密なことが示せたのでpφ.同様にpψも示せる.

について.pφかつpψとする. (*)において任意のqpが与えられたとき,r=qとおく.すると任意のsrが与えられたときにt=sとおけばtφ.また同様にt=sとおけばtψ.よってpφψが言えた.

4について. xφ¬x¬φの省略形と考える. よって

pxφ(x)qp qx¬φ(x)qp ˙xVP q¬φ(˙x)qp ˙xVP rq rφ(˙x)qp rq ˙xVP rφ(˙x)

となる. □

次回は論理公理がすべて最大元1で強制されることを示そう.

参考文献
  1. K. Kunen (2011) "Set Theory" College Publications
  2. 塩谷 真弘 (2019) 情報数学概論I(01BB007) 講義資料