なぜV上のジェネリックフィルターがあると思ってよいか?

強制法ではよく「V上のジェネリックフィルター」をとる.こんなものは実在しないのであるが,ではなぜそれがあると考えて議論してもいいのだろうか.

一つの正当化の方法として,Lévyの反映定理を使うものがある.それを紹介しよう.

以下の命題を例に取ろう.

命題
P = \operatorname{Fn}(\omega, 2)とする (つまりP\omegaから2への有限部分関数全体). このとき
\displaystyle{
\Vdash_P \text{$\bigcup \dot{G}$に$1$は無限回現れる}.
}

なお, \bigcup G\{0, 1\} \omega列であることに注意しておく.

これのVジェネリックなフィルターを使った通常の証明は次のようになる.

証明. (V, P)ジェネリックフィルターGをとる. 各m \in \omegaについて

\displaystyle{
D_m = \{ p \in P : \exists n > m\ p(n) = 1  \}
}

とおくと,D_mVに属する稠密集合である.

よって,各m \in \omegaについてD_m \cap G \ne \emptyset. これは

\displaystyle{
\text{$\bigcup G$に$1$は無限回現れる}
}

ことを意味する. したがって,強制定理より

\displaystyle{
\Vdash \text{$\bigcup \dot{G}$に$1$は無限回現れる}.
}

なお,上で使った強制定理は, V上のジェネリックフィルターに関する,いわば"偽物"の強制定理である.

さて,これをLévyの反映定理などを使って正当な証明に書き直す.すると以下のようになる.

書き直した証明. 各m \in \omegaについて

\displaystyle{
D_m = \{ p \in P : \exists n > m\ p(n) = 1  \}
}

とおくと,D_mVに属する稠密集合である.

Lévyの反映定理とLöwenheim--Skolemの定理より以下のような可算構造MであってZFCの十分大きい有限部分のモデルとなっているものがとれる.

  1. 以下の議論で出てくるすべての論理式 (有限個)はMVの間で絶対的.
  2. P, D_m \in M (for all m \in \omega).

\pi: M \to \overline{M}をMostowski崩壊とする.

MVの間の絶対性と\piの同型性より

\displaystyle{
\overline{M} \models \text{$\pi(P) = \operatorname{Fn}(\omega, 2)$}
}

かつ各m \in \omegaについて

\displaystyle{
\overline{M} \models \text{$\pi(D_m)$は$\pi(P)$の稠密集合}
}

である. また

\displaystyle{
\overline{M} \models \forall p \in \pi(D_m)\ \exists n > m\ p(n) = 1
}

である.

ここで(\overline{M}, \pi(P))ジェネリックフィルターGをとる.\overline{M}はctmなのでこれは可能.

今,\overline{M}[G]の中で議論する. m \in \omegaとする. ジェネリック性よりG \cap \pi(D_m) \neq \emptysetである. そこでp \in G \cap \pi(D_m)をとると,\exists n > m\ p(n) = 1. よって(\bigcup G)(n) = 1. 今mは任意だったから

\displaystyle{
\forall m \in \omega\ \exists n > m\ (\bigcup G)(n) = 1
}

が言えた.つまり,

\displaystyle{
\text{$\bigcup G$に$1$は無限回現れる}.
}

さて,以上の\overline{M}[G]の中での議論より

\displaystyle{
\overline{M}[G] \models \text{$\bigcup G$に$1$は無限回現れる}
}

なので(本物の)強制定理より

\displaystyle{
\overline{M} \models (\Vdash \text{$\bigcup \dot{G}$に$1$は無限回現れる}).
}

\piが同型だったので、

\displaystyle{
M \models (\Vdash \text{$\bigcup \dot{G}$に$1$は無限回現れる}).
}

ところがMVの間の絶対性より

\displaystyle{
\Vdash \text{$\bigcup \dot{G}$に$1$は無限回現れる}
}

となる. これで証明が完了した. □

このようにして「V上のジェネリックフィルターをとる」という操作は正当化される. つまり,「V上のジェネリックフィルターGをとり,今からV[G]の中で議論する」という宣言を「Lévyの反映定理とLöwenheim--Skolemの定理により議論に十分な可算モデルをとって,それをMostowski崩壊してctm \overline{M}を得て,そこ上のジェネリックフィルターをとる.その中で議論する.その後強制定理を使い,最後に絶対性でVに戻ってくる」と翻訳すればよいのだ.

参考文献

  1. 渕野 昌 (2018) "Iterated Forcing" https://fuchino.ddo.jp/notes/iterated-forcing-katowice-2018.pdf

この記事は文献1の1.1節を参考にした.

補足

この記事はあくまで正当化の一つの方法を書いたにすぎない.ほかの正当化については

  1. Hamkinsの[1108.4223] The set-theoretic multiverse
  2. Friedman, Fuchino and Sakaiの[1607.01625] On the set-generic multiverse

などに書いてあるかもしれないが,このブログの筆者はまだ読んでいない.