強制法ではよく「上のジェネリックフィルター」をとる.こんなものは実在しないのであるが,ではなぜそれがあると考えて議論してもいいのだろうか.
一つの正当化の方法として,Lévyの反映定理を使うものがある.それを紹介しよう.
以下の命題を例に取ろう.
とする (つまりはからへの有限部分関数全体). このとき
なお,はの列であることに注意しておく.
これの上ジェネリックなフィルターを使った通常の証明は次のようになる.
証明. ジェネリックフィルターをとる. 各について
とおくと,はに属する稠密集合である.
よって,各について. これは
ことを意味する. したがって,強制定理より
□
なお,上で使った強制定理は,上のジェネリックフィルターに関する,いわば"偽物"の強制定理である.
さて,これをLévyの反映定理などを使って正当な証明に書き直す.すると以下のようになる.
書き直した証明. 各について
とおくと,はに属する稠密集合である.
Lévyの反映定理とLöwenheim--Skolemの定理より以下のような可算構造であってZFCの十分大きい有限部分のモデルとなっているものがとれる.
- 以下の議論で出てくるすべての論理式 (有限個)はとの間で絶対的.
- (for all ).
をMostowski崩壊とする.
との間の絶対性との同型性より
かつ各について
である. また
である.
ここでジェネリックフィルターをとる.はctmなのでこれは可能.
今,]の中で議論する. とする. ジェネリック性よりである. そこでをとると,. よって. 今は任意だったから
が言えた.つまり,
さて,以上の]の中での議論より
なので(本物の)強制定理より
が同型だったので、
ところがとの間の絶対性より
となる. これで証明が完了した. □
このようにして「上のジェネリックフィルターをとる」という操作は正当化される. つまり,「上のジェネリックフィルターをとり,今から]の中で議論する」という宣言を「Lévyの反映定理とLöwenheim--Skolemの定理により議論に十分な可算モデルをとって,それをMostowski崩壊してctm を得て,そこ上のジェネリックフィルターをとる.その中で議論する.その後強制定理を使い,最後に絶対性でに戻ってくる」と翻訳すればよいのだ.
参考文献
- 渕野 昌 (2018) "Iterated Forcing" https://fuchino.ddo.jp/notes/iterated-forcing-katowice-2018.pdf
この記事は文献1の1.1節を参考にした.
補足
この記事はあくまで正当化の一つの方法を書いたにすぎない.ほかの正当化については
- Hamkinsの[1108.4223] The set-theoretic multiverse
- Friedman, Fuchino and Sakaiの[1607.01625] On the set-generic multiverse
などに書いてあるかもしれないが,このブログの筆者はまだ読んでいない.