前回は名称と強制関係を定義して基本性質を見た. 今回は論理公理が強制されることを見よう.
ZFCの論理的な公理として以下を採用することにする. ただしそれぞれの全称閉包をとる.すなわち各自由変数についてで縛る.
- (ただしはの自由変数でないとする)
- (の自由変数には代入可能であるとする)
以下,上記の論理公理がすべて強制されることを示すが,証明するのがかんたんな1-8を先に示す.
命題1
を半順序集合とする.このとき上記の論理公理のうち1番から8番はすべて最大元で強制される.
証明. 以下,全称閉包によって生じている全称量化については適切に任意に名称をとって議論していると考えてほしい.
1のについて. についてとする. このときを示せばよい. を任意にとりとする.このとき仮定よりである.よって示せた.
2のについて. とする. このときを示す. そのためにを任意にとり, とする.示すべきはである. そのために,を任意にとり,とする.するとよりであり,よりである.この二つから.よって示せた.
3のについて. とする. このときを示す. そのためにを任意にとり,とする. 背理法ででないと仮定するとがあってである. するとより. より特にでもあるので,はとの両方を強制する.これは矛盾.
4のについて. とする. をとり とする. このとき示すべきは,である. 名称を任意にとる. このときよりでありよりである.よってこの二つからである.これでが示された.
5のについて.とする.には変数は自由に出現しないということから任意の名称についてである.よってとなる.
6のについて. を任意にとる. を仮定する. このとき全称量化の強制の定義から.よってOK.
7のについて. ランク帰納法でを示す. 等号の強制の定義を思い出すと,を示せばよい. とする. の定義はが以下で稠密ということであった. 今任意のでととることで,は満たしているし,ランク帰納法の仮定よりを満たしている.よって,なのでこれで示せた.
8のについて. ならばなのは等号の強制の定義を見れば明らか.なのでよい. □
命題2
を半順序集合とする.このとき上記の論理公理のうち9番と10番は最大元で強制される.
証明. ここがやっかいなポイントである. 9番を証明するのに10番が必要になり,10番を証明するのに9番が必要になる.そこでランク帰納法で同時に9番と10番を示す.
帰納法の仮定を表す命題を次のようにおく:
任意の順序数について とを示す.
まず,について. かつとしよう. このときを示せばよい. の定義の前半を示そう.後半も同様である. とを任意にとる.を任意にとる.このとき,の定義よりである.よってとがとれてかつとなる. するとの定義より, となる. はとの両方を強制するのでよりである.
について. かつとする.このときを示す. とする. このときの定義より,とがとれて,かつ. するとはとを強制するのでより. これでが言えた. □
命題3
を半順序集合とする.このとき上記の論理公理のうち11番は最大元で強制される.
証明. かつとする.このときを示す. とする.このときよりとがとれて,かつ.するとの定義より. するとはとをともに強制するから論理公理の10番が強制されることはすでに証明済みなので,. □
以上の命題1, 2, 3より論理公理はすべて最大元で強制される.
次回からZFCの公理が強制されることの証明に入っていきたい.
参考文献
- 塩谷 真弘 (2019) 情報数学概論I(01BB007) 講義資料