固定した無限集合に入るコンパクトハウスドルフな位相はいくつ?

固定した無限集合に入る位相はいくつあるか? - 理科で証明を残していた定理を証明しよう。

主張

この記事では以下を証明する.

定理A: 可算集合Xを固定したとき,Xに入るコンパクトハウスドルフな位相は(同相を同一視せずに)ちょうど2^{\aleph_0}個ある.
定理B: 可算コンパクトハウスドルフ空間は(同相を同一視して)ちょうど\aleph_1個ある.
定理C: \kappaを非可算基数とする.このとき濃度\kappaのコンパクトハウスドルフ空間は(同相を同一視して)少なくとも2^\kappa個ある. したがって,前の記事の結果と合わせて,ちょうど2^\kappa個ある.

定理Cの証明は[2]のEric Wofseyによるものである.

順序位相について

この記事では順序数に順序位相を入れて、位相空間と考える.

定理Aの証明

定理A: 可算集合Xを固定したとき,Xに入るコンパクトハウスドルフな位相は(同相を同一視せずに)ちょうど2^{\aleph_0}個ある.

前の記事から,個数が2^{\aleph_0}以下であることはわかっている. \omega^2+1は可算なコンパクトハウスドルフ空間であるが,これと同相な\omegaへの位相の入れ方がすでに2^{\aleph_0}個あることを示そう.

\omega^2+1は孤立点と集積点がともに可算無限個ある. そこで,\omegaの無限かつ補集合も無限な部分集合Aを考え,Aの点を\omega^2+1の孤立点,Aに属さない点を\omega^2+1の集積点に写す全単射fをとる.そこで\omega^2+1に入っている位相のfによる引き戻しを考える.これは\omega上のコンパクトハウスドルフな位相であり,Aを変えるごとに異なる位相になる(当然,ここでの「異なる」は同相ではなく同等の意味での異なるである).実際,この空間の孤立点集合を考えれば,Aが復元できるからだ. \omegaの無限かつ補集合も無限な部分集合は2^{\aleph_0}個あるため,結局\omega^2+1と同相な\omegaへの位相の入れ方が2^{\aleph_0}個ある.

定理Bの証明

定理B: 可算コンパクトハウスドルフ空間は(同相を同一視して)ちょうど\aleph_1個ある.

たかだか\aleph_1であることは次の定理より分かるが,この記事では証明しない.

Mazurkiewicz-Sierpińskiの定理: 可算コンパクトハウスドルフ空間はすべて可算後続順序数と同相である.

ここから少なくとも\aleph_1個あることを示そう. 定理Aの証明でも孤立点・集積点に注目したが,その考え方をもっと進めることにより,Cantor-Bendixson rankという位相不変量を定義できる.

定義. X位相空間AX閉集合としたとき,Aの集積点全体をD(A)と書く. また,X閉集合Aと順序数\alphaについてD^\alpha(A)を次の再帰で定義する.
  • D^0(A) = A.
  • D^{\alpha+1}(A) = D(D^\alpha(A)).
  • D^{\alpha}(A) = \bigcap_{\beta < \alpha} D^\beta(A) (\alphaが極限順序数のとき).
D^\alpha(X) = D^{\alpha+1}(X)となる最小の順序数\alphaを空間XのCantor-Bendixson rankという.

Cantor-Bendixson rankは位相不変量である.

Cantor-Bendixson rankの例を出す. \omega+1は一度Dをとると\{\omega\}になり,D^2\emptysetD^3\emptysetなので,\omega+1のCantor-Bendixson rankは2である. \omega^2+1は一度Dをとると\{\omega, \omega \cdot 2, \omega \cdot 3, \dots, \omega^2 \}になり,D^2\{\omega^2\}D^3\emptysetなので,\omega^2+1のCantor-Bendixson rankは3である. 一般に\omega^\alpha+1のCantor-Bendixson rankは\alpha+1なことが示せる.

ところが,Cantor-Bendixson rankが位相不変量だったことを思い出すと,\omega^\alpha+1\ (1 \le \alpha \lt \omega_1)たちは互いに同相でない可算コンパクトハウスドルフ空間である.これで可算コンパクトハウスドルフ空間は(同相を同一視して)少なくとも\aleph_1個あることがわかった.

定理Cの証明のための準備

定理Cの証明のための準備を二つしよう.

まず位相空間の点に対してCantor-Bendixson rankを定義する. これは位相空間Xの点xについて,x \not \in D^\alpha(X)となる最小の\alphaを点xのCantor-Bendixson rankと呼び,\operatorname{cbrk}(x)と書く. Xが順序数で,\omega^\alpha \in Xのとき\omega^\alphaのCantor-Bendixson rankは\alpha+1である.

次に位相空間Xの点xに対して,その共終数を定める. 無限正則基数\lambdaxの共終数であるとは,連続な単射f: \lambda + 1 \to Xが存在して,f(\lambda) = xとなることとする. 一般には点xに対し共終数は一意に定まらない (実際,共終数が2個ある点をうまく利用して定理Cを証明する). ただし,Xが順序数で\gamma \in Xが極限順序数のときは共終数は一意に定まり,通常定義される意味での共終数と一致する.

定理Cの証明

定理C: \kappaを非可算基数とする.このとき濃度\kappaのコンパクトハウスドルフ空間は(同相を同一視して)少なくとも2^\kappa個ある. したがって,前の記事の結果と合わせて,ちょうど2^\kappa個ある.

Sを順序数の集合とする.\alpha = (\sup S) + 1とおく.


L_S = \{ (\beta, n) \in \alpha\times(\omega+1) : \beta \in S \lor n = \omega \}

とおく. L_Sには,\alphaに通常の順序数の順序,\omega+1には通常の順序とは逆の順序を入れ,その辞書式順序を入れる.

つまり,


(\beta, n) \le (\beta', n') \iff \beta < \beta' \lor (\beta = \beta' \land n \ge n')

とする.

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L_Sは直観的には\alphaの中の各\beta \in Sについて\beta\beta+1の間に自然数全体を逆向きにしたものを挿入して得られる全順序集合である.(上の図は2次元で描いたが、これを1次元に折りたたんだものを想像すればよい).


\begin{align}
(\alpha)\times(\omega+1) \setminus L_S &= \{ (\beta, n) : \beta \not \in S \land n < \omega \} \\
&= \bigcup_{\beta \in \alpha \setminus S} ( (\beta, \omega), (\beta + 1, \omega))
\end{align}

であるため,(\alpha)\times(\omega+1) \setminus L_Sは開集合,よって,L_S\alpha\times(\omega+1)閉集合である.\alpha\times(\omega+1)がコンパクトなので,L_Sもコンパクトである.全順序集合は最初からハウスドルフなので,L_Sはコンパクトハウスドルフ空間である.

Tを次の性質(*)を満たす順序数の集合とする.

  • Tの濃度は\kappa.
  • 任意のTの要素\alphaについても|\alpha| = \kappaかつ\operatorname{cf}(\alpha) \ge \omega_1.

このようなT2^\kappa個ある (ここに\kappaの非可算性を使う). これには,|\alpha| = \kappaかつ\operatorname{cf}(\alpha) \ge \omega_1なる\alpha\kappa^+個あることを言えば十分. 実は,|\alpha| = \kappaかつ\operatorname{cf}(\alpha) = \omega_1と限定しても\kappa^+個あることが示せるのでそれを示す. |\alpha| = \kappa\kappa \le \alpha \lt \kappa^+と同値.そこで,共終数が\omega_1\alpha\kappa^+内で非有界にあることを言えばよい (\kappa^+が正則なので).そこで\alpha \lt \kappa^+を任意にとり,\beta = \alpha + \omega_1を考えれば,\betaの共終数は\omega_1\alpha \le \beta \lt \kappa^+を満たす.よってOK.(実は正則基数\lambda, \mu\omega \le \lambda \lt \muなるものに対して共終数が\lambdaな順序数は\mu未満で定常集合になっていることが言えるが今回はそこまで要らない).


S(T) = \{ \omega^\alpha : \alpha \in T \}

とおく.

このとき(*)を満たすTについて,L_{S(T)}は濃度\kappaのコンパクトハウスドルフ空間であり,異なるTを与えるごとに同相でないL_{S(T)}を得る.

よって,濃度\kappaのコンパクトハウスドルフ空間は(同相を同一視して)少なくとも2^\kappa個あることがわかる.

異なるTを与えるごとに同相でないL_{S(T)}を得ることを示すためには,L_{S(T)}の位相構造のみを使って,Tを復元できればよい.

実際,次のようにTを復元できる.


T = \{ a \in \mathrm{On} : \text{$x \in L_{S(T)}$が存在して$\operatorname{cbrk}(x) = \alpha+1$かつ$x$の共終数が二つ以上ある} \}

実際,\alpha \in Tなら,L_{S(T)}の点(\omega^\alpha, \omega)の共終数は二つある. \omega^\alphaの上に生やした逆向きの自然数全体を降りていけば,\omegaは共終数であるし,順序数\omega^\alphaの共終な列で下から昇っていけば\operatorname{cf}(\omega^\alpha) = \operatorname{cf}(\alpha)も共終数である.Tの性質より後者は\omega_1以上である. (\omega^\alpha, \omega)\ (\alpha \in T)以外の点は共終数はたかだか1つなので,よって上の等式を得る.

参考文献

  1. general topology - Countable compact spaces as ordinals - Mathematics Stack Exchange
  2. general topology - How many compact Hausdorff spaces are there of a given cardinality? - Mathematics Stack Exchange